「がん」って、健康な時には考えたくない言葉。
知らないからさらに不安になり、知らないから良かれと思ってやったことが、人を傷つけてしまう。
「緩和ケア」って、何か理解していなかった。
今回紹介する本は、「がん」だけでなく、生きることについて考えることができる本だ。
時間をあけて、何度も読んで「生きる」ことについて、その都度考える時間を持ちたいと思える1冊!!
本の帯を書かれているのは、写真家、元狩猟家、血液がん患者でもある幡野広志さん
この記事の目次
本日の読書『がんを抱えて、自分らしく生きたい』西智弘
『がんを抱えて、自分らしく生きたい がんと共に生きた人が緩和ケア医に伝えた10の言葉』西智弘(著)
緩和ケア医・川崎私立井田病院 西 智宏先生とは
西 智弘(にし ともひろ)
川崎市立井田病院 かわさき総合ケアセンター
腫瘍内科/緩和ケア内科 医長(日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医)
一般社団法人プラスケア代表理事、リレーショナルアーティスト
抗がん剤の専門家、緩和ケアの専門家として、多い時では年間4,000件の「生と死」にたずさわる。
- カフェのような柔らかな雰囲気の場所で、病気の悩みや健康に関する心配ごとを相談したり、話したりできる場所として、「暮らしの保健室」運営。
- 「社会的処方研究所」のオンラインコミュニティを運営。
緩和ケアとは
ぼくは、そもそも「がん」についての知識が疎い。
身内を「がん」で亡くしており、決して他人事ではないにも関わらずにだ。
ホスピスならわかるけど、緩和ケアをあまり知らなかった……。
ホスピスとは、死期の近い(末期がんなどの)患者に安らぎを与え、看護する施設。
以前は、ホスピスという言葉が使われていたが、最近ではあまり使われなくなっているようだ。
緩和ケアとは、本書より下記を引用
「がんを抱えて、自分らしく生きる」ための重要なパートナーである。しかし、緩和ケアという言葉自体に抵抗があるというのも事実だろう。
緩和ケアは終末医療の医療ではなく、がんになった時から必要なものだといくら説明しても、言葉そのものについてしまった「死のイメージ」はぬぐうことはできない。
緩和ケアって、最期の場所って勝手なイメージだったが、実は今はもっと身近な存在になっていた。
『がんを抱えて、自分らしく生きたい』本に書かれている内容
医師として「がん」と向き合い続けている西先生だからこそ書ける、患者さん、患者さんのご家族、医師の生々しいリアルな感情が見事に言語化されている。
まるで、その診察室に自分もいるかのように、映像を見ているかのような感覚になる。
がんと診断されても、人生のハンドルは握るのは医師ではなく本人
がんを抱えて、自分らしく生きたいと願うなら、医師に頼るべきではない。
がんと診断されてしまうと、人生の裁判官にように、自分の意思とは別に、「医師」によって、自分の人生の運命は決まってしまうくらいに、ぼくは思っていた。
でも、医師に判断をすべて委ねてしまうが為に、自分の人生を自分で歩めずに、苦しい時にさらに「自分らしく」からさらに遠くなってしまう。
この本を読んでわかったことが、余命宣告されようと、自分の人生があと僅かとわかっても、それでも自分で「選択」できることがわかった。
そこには、専門のいっしょに考えてくれる人がいることもわかった。そこに、医師も含まれる。
医師の葛藤
患者さんが「がんという病を抱えてどういきていくのか」について導くことができるかと言えば、……全く自信がない。
私も以前は、少なくても同世代の人間の中では人の生死に多く触れる経験を積み、いずれは「生きるということ」の真の姿に迫れるのではないかと思っていた。だが、経験を積めば積むほど、自分が何も知らないということを痛感させられるばかり。
そして、私もどこまでいっても「医師」という考え方の枠組みから逃れられないということにも気づいてしまった。私もまた、頼りにならない医師のひとりなのだ。
「医師」という立場で、医学の視点でみれば、がんの治療については、答えはあると思う。
しかし、著者の西先生は、患者さんを上から目線ではなく、患者さんにできるだけ寄り添って、患者さんの視点で同じ位置からできるだけ見ようと努力されるその姿勢に、感動する。
西先生は、「医師」であり、患者さんとの立場の違いに、どこまでいっても「医師」から離れられない葛藤も表現されている。
「何もしない」という勇気
私は、研修医の時からたくさんの患者さんの最期を見続けてきて、いまは「何もしないということを、する」というのが良い場合があると思っている。医師として「何もしない」というのは勇気がいることだ。
「何もしない」と苦しいのは、相手ではなく「自分」だ。
自分が「良かれ」と思うことでも、それが本当に相手に良いかは別の話。
延命ができたとしても、その延命治療が患者さんが望んでいるからどうか。
医師として、延命できるいのちを延命せずに、最期をいっしょにむかえるのは、ぼくには想像できない勇気がいる選択なんだと、心が痛くなった。
人は最期まで「希望」を生み出すことができる
余命宣告を受けて、ただただ「死」という絶望に向かって時間を過ごさなければいけないのかという不安がぼくにはあった。
もし、ぼくと同じような不安をもっている方がいれば、この本を読んでほしい。
「人は最期まで希望を生み出すことができる」という事実を知り、こころの救いになる。
がんの「民間療法」について
- あなたがもし、民間療法に興味があるのなら、私はその気持ちを否定しない。もし「がんに対する効果がありますか?」と問われれば、専門家として「私はそうは思わない」と答えるが、「その私の意見を聞いたうえで、あなたはどうしたいと考えますか」と問うだろう。
どの道を歩むかはあなたが決めること。あなたが最も納得できる道はどこにあるのかを教えてほしい。- もちろん、その民間療法を受けて少しでもいいことがあることを私たちだって望みたい。それでも、何かあった時にあなたを護るものは必要だ。緩和ケアの役割はここにもある。
民間療法って、よく聞くけど、よくわからない。
わからないから、不安な時ほど信じたくなる。
ぼくはまだ当事者になったことがないので、わからなかったけど、少なくてもこの本を読んで、患者さんの気持ち、その患者さんの周りにいる人たちの気持ち、そして医師の気持ち、その人たちの気持ちを知ることができた。
『可能性を信じて民間療法を試してみたい』という患者さんの気持ちと、『民間療法を試した結果どうなるかまでわかってはいるが、それでも患者さんの考えを尊重しよう』とする医師の気持ち。
それでも、緩和ケアがサポートしてくれるって言ってくれるのは、心強くてありがたい。
書評まとめ『がんを抱えて、自分らしく生きたい』西智弘
ぼくは、この本を読んでいて、苦しかった……。
ぼくは、「死」がこわい。「がん」がこわい。
今、健康であるぼくは、できるだけ「死」「がん」のことを考えずに、『遠いものだ』と思っていたいという無意識に避けていた。
しかし、必ず「死」はぼくにも訪れることを、頭ではわかっている。
また、今は元気なぼくの両親がいつ「がん」の宣告をいきなり受けて、まるでいつまでも続くかのように思っていたい毎日の「ふつう」が急変し、「死」と向き合う生活に変わるかという恐怖も、心のどこかに常にある。
この本を読んでいる時間は、少なくてもぼくは「死」「がん」と向き合った。
だから、苦しかった。
苦しかったけど、たいせつな時間を持つことができた。
ぼくも、「自分らしく」人生の最期を迎えることを目指したい。
しかし、何が「自分らしく」なのか、今はまだわからない。
緩和ケアは、その「自分らしく」人生を終えることをいっしょに考えてくれ、サポートしてくれる。
自分の最期を考えることは、同時に「いま」をたいせつに生きることにつながっていく。
「がん」と「死」と向き合える本
おすすめ度 ★★★★★
「がん」「抗がん剤」「緩和ケア」「在宅医療」「死」に対しての考え方に、大きく影響受けた本。
この本は、ぼくの大切な人たちにも読んでもらいたいと思う。
「今」知っておいてほしい、考えておいてほしい。
何より、自分のために読んでもらいたい。